SFの父とも呼ばれる小説家、H.G.ウェルズ(1866-1946)。
彼は小説家のほか科学者、思想家等、多くの顔を持っていた。
そんな多才なウェルズの著作を検証すると、彼の驚くべき「予知能力」が見えてきた。
本書は、未来の出来事を記録した年代記『THE SHAPE OF THINGS TO COME』(邦題・世界はこうなる)の研究を土台にして、彼が予見した22世紀までの歴史を解説する。
「予言書」としか思えないその本には、これから世界がどうなるのか、日本がどんな道を辿るのかが明確に書いてあるのだ。
五島勉氏には感謝のほかない。
ノストラダムスという稀有な存在を知らしめてくれた。
「ノストラダムスについて、掘り下げることに世界で最も成功した日本人……それは五島勉ではなかった…」 ノストラダムス予言の構造 1982 中村恵一 (著) 新思索社
https://dokidokitenkataihei.com/nakamura/
H.G.ウェルズはまさしく、天才以外の何物でもない。
「透明人間」、「タイムトラベラー」、「宇宙戦争」、ほかにも忘れ難い数多くの短編と。
彼が書いた数々の傑作のなかで、本書「世界はこうなる」は異質である。
まず、端的に言ってつまらない。意味が分からない小説である。
全編これ判じ物のような小説である。
H・G・ウエルズ 「世界はこうなる」吉岡義二訳 The Shape of Things to Come 1933年発行。それを評価した「予言された未来の記録」 五島勉(平成25年 2013年 5月発行)の提示した謎とは
「原文205ページの日本人青年の詩、つまりアーモンドの花の詩じゃないだろうかと思うんです」
「そうですか、そこに気がつきましたか」と、翻訳者の吉岡氏はいった。
そこというのは、原書ではアーモンドの花なのに、訳文では、桃の花になっていた、、
そこのことである。
なぜ、そうなったのか?
他の部分は完璧な訳文なのにそこだけ誤訳ではないかと,若き五島勉が問う。
④原子戦術は徹頭徹尾、残酷きまわる方法で、まだ春秋に富む人命を、一人びとりそして25万人もの生霊を奪った。P361
⑤1933年、日本人は北京および天津を占領した。かれらは北京に第二の傀儡政権をおし立てた。P372
⑥1936年には、日本はすでに150万人以上の軍隊を満州国境と、広東との間にばらまいた。日本は二回にわたり、南京を大爆撃した。P373
⑦1938年を通じて、日本兵は武昌付近の長い長い三日月型の塹壕の上から、よいニュースを待ちあぐんだ。ペストが7月に発生した。次いで1939年の初頭には、かれらは南京から退却を始めた。
その退却の恐るべきありさまは、決して真実のまま報道されなかった。
三軍団の日本軍は、最高勢力の時は二百万人を数えたが、退却を完了しうる者の数は、たぶん、百万かそれ以下しか残らなかった。 P378
⑧武昌から退却途上に殺された一日本将校の日誌がある。
かれは知識人で社会主義者で国際連盟の強い信者である。
そしてかれの記録は最高司令部の暗号で書かれ、内容は主として、戦争批判である。
かれには幾分の戦友があったように思われる。
その戦友がたおれ、行方不明になるごとに、その名前を書きとめている。
それから兵器弾薬の消耗の記録らしい数字もある。
かれは衰弱するにつれて複雑な暗号を使うのがあまりに困難になり、まず拙い英語で、ついで生の日本語で書き綴るようになった。
最後の絶筆は、古めかしい和歌の一片をした未完成の詩で、次のようにーー
うららかな 春の日に ももの花 さく
美しく けだかき婦人 そは 富士の山
愛しき 数々の思い出 うまし たからの島
ふたたび 見られぬは そなたの顔か?
4行詩は原著の221ページ、翻訳本の上巻448ページに現われる。
その箇所に関して、五島氏はこう解説する。
「中国の不気味な圧力が、まだ海や島には出てこなかったころ、まず中国大陸の内部で、日本や日本人への激しい攻撃が荒れ狂った時期だった。
その危険地域のひとつ、河南省の都市開封からすこし離れた道を、その日の暗い夜明け、よろめきながら走る一人の日本人青年の姿があった。」
「彼は中国に派遣されていた若いオフィサーだった。かれは危険をのがれて少数の日本人の仲間といっしょに、遠く離れた開封の近くまでさまよってきたのだった。仲間は行方不明になって次々に減り、結局そのオフィサーの青年一人だけになってしまっていたのだ」
そういう状況のなか、かれはおそらく死の間際に一編の詩を残すのである。
アーモンドの花が咲きほこる うららかな春の光
富士の山 優雅で美しい女性
宝の島よ 愛らしいものにあふれた我が家
二度と見ることはないのだろうか?
このアーモンドの花に五島氏は魅了されてしまう。
そして、なぜアーモンドの花なのかを問うのである。
かれはもともと創元推理文庫のウエルズ傑作集①を読んで、そのあとがきの阿部知二の「来るべき世界の姿」言及に触発されていたのである。
「端的にいえば第二次世界大戦の予言である。
年代も実際の第二次世界大戦とほんの少し、2年の差である。
全世界は世界的結合によるあたらしい世界国家組織が生まれ人類は安定し、そしてやがては宇宙へと出かけるであろう、というのである。
この来るべき世界の姿はSFともいいがたく、また小説という範囲すらをも越えたとすべきであろう、、、」
五島氏は翻訳者の阿部知二に電話をかけるーーほかにあの本にはなにか書かれていないんですか?
「まあ、そういわれればあるね」と、阿部知二はこたえる。「2059年とかフラワーコードとか」
「いや、そうはならない。僕はあの作品は訳さない。これ以上説明するつもりもない。ぼくはああいうものに手を出す気はないんだ!」
阿部氏は急にものすごく不機嫌になった(と五島氏は書いている)
「あれには首をつっこむな。さわるな!」と氏は最後に激しく言うと、ガチャンとたたきつけるように電話を切ってしまった。
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五島氏は来るべき世界の姿の原書を探して国会図書館(現在の赤坂迎賓館)でそれを見つける。
それはなんと諜報組織 満州調査部の所蔵本だった。
その後五島氏は、アーモンドの花、2059年の謎にとりつかれ、ついに翻訳本をみつけるのである。
訳者は吉岡義二氏というビジネスマンであった。
訳者の吉岡氏は翻訳の専門家ではない。
元々戦後のシベリア抑留中にタバコの包紙に書いて2年掛かりで翻訳したものの、帰国時に没収され、後に銀行家として勤務する傍ら数年越しで訳業を果されたそうである。
その翻訳本にあった4行詩はアーモンドの花がももの花にすりかえられていたのだ。
誤訳である。
その理由を訳者本人に質した五島氏は、吉岡氏から意外ないきさつを聞かされてしまう。
ーー訳出している最中、ある欧米人からアーモンドの花をそのまま訳さないように脅されたというのだ。
ーーなぜなら、それはナンバーズの秘儀だから、
というのである。吉岡氏は誤訳だと知りながら、ももの花と訳さざるを得なかった、そうしなければ出版を妨害するといわれたからだ。
①アーモンドの花が咲くという旧約聖書の記述は、〈ナンバーズ〉民数記17章に、12本の杖からアーモンドの芽がでるだろう「こうして、わたしはイスラエルの人々が、あなたがたにむかって、つぶやくのをやめさせるであろう」というユダヤ教の主のことばがある。
②日本に世界未来を託するというアーモンドの花を咲かせる、「世界はこうなる」の詩は耐えがたい。欧米に対する冒涜である。
③だから、アーモンドの花を桃の花に変えたのだ。
↑この一連の「事件」、すべて、五島勉氏がノストラダムスものを書いて一世を風靡するまえの出来事である。
1970年前後のことか。
吉岡氏は五島勉氏と会ってすぐに亡くなってしまったとのこと。
多忙なルポライター稼業の合間にこれだけの「調査」を行っているのである。さすがである。
ある欧米人からアーモンドの花をそのまま訳さないように脅されたというのだ
↑これも穏やかではない話だが、ホントの話であろう。
この青年がその逃走時の心境を詩にしたのか、H・G・ウエルズがなにかを隠すために日本に関する未来を言いたかったのか、それもはっきりしない。
1914年刊行の「解放された世界」で原子爆弾を予告し、その20年後に「世界はこうなる」のなかで、2106年を空想してPを予言しアーモンドの花を日本に咲かせる。
いったい、H・G・ウエルズは、なにを思ってこの詩を載せたのだろう?