怪談の悦び (創元推理文庫 1992/ラドヤード・キプリング (著) 「彼等’They’」 南條 竹則訳
ラドヤード・キプリング の「彼等’They’」という短編小説が無性に再読したくなった。
探せばどこかにあるはずだが、見当たらない。
近所の図書館で検索すれば、閉架にある。
暑い中、さっそく借り出してきて再読。
じつに25年ぶりの再会である。
感想は…凄すぎる。
南サセックスの海沿いの館に主人公が自動車で紛れ込むところから始まる。
盲目の女主人の歓待。
無理に区分けすれば、ゴーストストーリーということになるだろうが、とてもとてもそんな範疇に収まるものではない。
敢えて似た話を探せば、耳なし芳一に似てる。
幽玄というのか、幽品というのか、とにかく暑い中借りてきてよかった。
閃閃 5つ星のうち5.0 「彼等」はまさに絶品です。 2010年8月27日に日本でレビュー済み
筋金入りの怪談愛好家の南條氏による選集です。
クライマックスの扇情的な場面が印象的な「ダンカスターの十七番ホール」をトップに、粒ぞろいの作品が並んでいます。
しかし何と言っても、ラドヤード・キプリング「彼等」に尽きると思います。
こんなに美しくて、せつない怪談ははじめて読みました。
特に行間の美しさは見事で、好きな怪談は?と訊かれたら、真っ先にこの作品を挙げたいと思います。
この作品に引き合わせてくれた本書と南條氏に感謝しています。
ラドヤード・キプリングといえば、「東は東、西は西」や、少年キムやインドものの好短編で知っている程度であったが、本作「彼等’They’」が大正5年1916に訳されて以来、1992年まで訳されていなかったというのが驚きだった。版権の関係か?
ここは素直に、翻訳者編者・南條 竹則氏に感謝したい。
この作品の裏話を話せば、これを書く直前に、キプリングは最愛の娘をなくしているとのこと。
そんな悲劇がこんな傑作に結実したのだなと思う。
さてここで我が室生犀星に話は飛んでくる。
室生犀星集 童子―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫) 2008/室生 犀星 (著), 東 雅夫 (編集)
「後の日の童子」がこれまた絶品である。
たぶんおそらくだが、室生犀星は、「彼等’They’」を読んだうえで、「後の日の童子」を書いている。
『彼等』 They
translator:平田禿木(Hirata Tokuboku) Publisher:研究社(KenkyuSha)
1916(大正5)
↑明らかにこれを読んで、触発され書いたものと思われる。
「「後の日の童子」が大正11年1922、6月溺愛していた長男・豹太郎をなくした悲痛な体験にもとずく作品であることも、やはり周知の事実だろうが、幽冥の境を超えて寄る辺ない帰還を果たす愛児の姿には、遠い日の室生犀星自身の孤影が遥かに重ねあわされているように思われる。」
(東 雅夫氏の巻末解説「不気味さ哀しみと」より)
「彼等’They’」が大正5年1916に訳されて以来、1992年まで訳されていなかったというのが驚きだった。版権の関係か?